約 2,380,684 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/100.html
第1話「事の発端」 「あ~、ご主人様遅いなぁ」 出窓から小雨の降る外を眺めながら、溜息をつく。 「ね~白ちゃん、ご主人様どうしたのかなぁ?」 クッションの上に寝そべりながらテレビを見ていた白ちゃんに声をかける。白ちゃんは 「ご主人様も仕事で遅くなることはあるって言っていたでしょ? 人間には色々面倒なことがあるの、あなたも分かってるでしょ?」 なんて、クールな事をいってたしなめてくる。でも白ちゃんもさっきから、車の音がするたびに玄関のほうをばっと向いて、玄関が開く音がしないかじっと耳をすませている。 やっぱり白ちゃんも心配なんだ。マスターが何で帰ってこないのか、様子だけでも見に行きたい… この部屋はボクたちが暮しやすいように大部分のものがボクたちのサイズで作られている。 この出窓へ上がるのも、ご主人様が日曜大工で作ってくれた手すりまで付いた階段を使っている。 でも、元が人間用だった部屋だけに備え付けられたものの殆どは人間が使うための大きさだ。 ドアをあけるドアノブも、ボクらの手が届かないはるかな高みに存在している。 普段は「火事か地震の時以外は部屋から出てはいけない」と言われているから、それで問題ないんだけど、外の様子が見たい今は大きな壁となって立ちふさがる。 「どうやって開けるか、それが問題だ」 腕を組んで頭をひねるボクに、白ちゃんが訝しげな顔で 「ねえ黒ちゃん、何かろくでもないこと考えてない?」 なんて聞いてくる。そうだ! 「ねえ白ちゃん、白ちゃんの武装ユニットを貸して欲しいんだけど!」 「え? う、うん」 「じゃ、借りるね!」 「え? ど、どうする気なの?」 暇つぶし! と言い捨てて武装がしまわれている棚へ走る。白ちゃんの武装なら飛べるからノブにも手が届くはず。 てきぱきと武装を身につけ、身体を宙へ浮かべる。 「ねー、何するの?」 白ちゃんがボクを見上げながら問いかけてくる。 「ご主人様を迎えに行くの!」 笑顔でそう応えたとたん、白ちゃんの顔色が変わって、必死でボクに降りるよう言ってきたけど、ボクはやるって決めたら絶対やるもん! ドアノブに抱きつき、捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻るには捻れるけど、ドアを開けることが出来ない。 ご主人様は軽々やれることなのに。武装神姫なんて、大仰な名前が付いているのに、何でこんなに非力なんだ う。 でも挫けていられない。別の方法を考えないと… この部屋から外に通じているのは、…そうだ、出窓がある。出窓の鍵も普段は手の届かないところにあるけど、飛んでいれば届く。 ボクは方向転換し、窓の鍵に飛びつき、推力を落として体重をかけた。ググッ、カシャン! やった! バランスを崩して落ちそうになったけど、この窓はボクらの力でも何とか開けられることは知っている。 武装の力を借りれば一人でも空けられるはずだ。 ボクが窓に悪戦苦闘している間に、白ちゃんが出窓へと駆け上がってきた。 「黒ちゃん! だめ! 外は危ないって言われてるでしょ! しかももう夜なのに!」 でも一足遅い、ボクはもう出るに十分に窓を開け、外へと身を躍らせた。 後ろから聞こえてくる、白ちゃんの絶叫に罪悪感を感じながら… しとしとと降り注ぐ雨が関節に染み込んで気持ち悪い。神姫はお風呂には入れるくらいの耐水性能があるけど、同じ水なのに、お風呂と雨では全く受ける感覚が違っている… ブルッと身震いして、玄関のほうへ翼を向ける。 真っ暗で、外から見る家は、いつも住んでいる家のはずなのに、不気味で冷たくよそよそしいお城みたいだとなんとなく感じた。 出窓からも見える駐車場には、寒々しい空白が広がっている。こんなところでも、ご主人様の不在を重く認識させられる。 「ご主人様…」 愛しいご主人様の名も、口に出すと、寂寥感が胸の奥からこみ上げてくるだけだった。 「何で帰ってこないの…?」 ふらふらと、家の前の道路にまで漂い出る。さっと影が払われ、まばゆい光が 「え?」 ヘッドライト! 車が来たんだ! 身をかわさないと! キキーッ! バチン! 「キャーーーーッ!」 物凄い衝撃。翼が砕かれ、きりもみ回転しながら地面に叩きつけられる。身体がバラバラになるような、ショックで悲鳴まで飲み込んでしまう。 何度かバウンドし、それが収まったときには、本当にボクの身体はバラバラになっていた。両手は肘から吹っ飛び、腰が砕け、下半身がどこかへ行ってしまった。 車から誰かが慌てて降りてくるのを知覚したけどボクは 「人間だったら絶対助からないよね…」 なんて呟いて、そのまま意識を失ってしまった。 う~ん、なんだろう。身体が動かないや。バッテリー切れかな? でもそれなら視界の隅に電池切れ! ってでるはずなんだけどなぁ? 何か聞こえる…ボクを呼んでる? 「…黒子…しっかりしろ…」 「…起きて…黒ちゃん…お願い…」 ご主人様と白ちゃん。どうしたんだろう…? 「な~に~?」 声を出した瞬間、一気に全てがはっきりした。そうだ、ボクは車に… 「黒ちゃん!!」 「黒子! よかった、生きていたか…」 白ちゃんがガバッと抱きついてくる。目を開けると、ご主人様が目をこすりながら「よかった…」を連呼している 「黒ちゃん! あなたなんて馬鹿なことしたの! ぶつかった車がご主人様のだったからすぐに手当てして上げられたけど、両手も両足もなくなっちゃって、体中傷だらけで…うぅ、うわーーん!」 「俺も、あんなにスピード出していなければ、ぶつかる前に止まれたのに…うぅっ」 ああ、ボクはなんて馬鹿だったんだ。ご主人様が帰ってこないはず無いのに…余計な心配をさせてしまって…涙まで流させてしまって… その後、火事や地震でもないときに部屋どころか、家から出てしまった事を一杯怒られた。それだけでなく、 「身体だけなら交換で何とかなるけど、頭部にもダメージがあるから、メーカーに送らないと修理できない」 って、言われて、メーカーに修理に出されることになっちゃった。 でも、ご主人様がボクを箱に詰めるときに、ぎゅっと抱きしめてくれて 「早く元気になって、帰って来いよ…」 って、優しく囁いてくれた。しばらくご主人様にあえなくなるのは寂しいけど、ちょっとだけ幸せ。ちょっと現金すぎるかな? ボク… SSS氏のコラボ作品はこちら 続く
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2382.html
「……なんか、改めて向き合うと緊張するもんだな」 「そうですわね」 家に着き、俺とヒルダは自室で向かい合っていた。何故か正座で。 ヒルダは居間に置かれている座卓の上に座りながらこちらを見上げていた。 バイザー越しなので視線は感じ取れないが……ちょっとおびえているようにも見える。……無理もないか。自身の中の別人格を意識的に呼ぼうとしているんだから。 しかしまあ、あれだ。こうやってにらめっこを続けていても埒が明かない。 「……ヒルダ、頼む」 「はい、ですわ」 ヒルダがルナピエナガレットに手をかけ、ゆっくりと外す。 こちらを見据えた蒼い目は瞬きをした瞬間に紫水晶へとその色を変えた。 「……あら。ワタクシを貴方自ら呼びだすなんて、めずらしいですわね」 あきらかに居丈高な口調。そして高圧的な態度。 間違いなく、「裏」のヒルダだ。 「さて、一体何の用ですの? ワタクシを呼び出したのですから、理由があっての事ですわよね? 筐体のなかでないのならリアルファイトですの?」 「別に戦うために呼び出したわけじゃないさ。茶飲み話ぐらい付き合ってくれ。お前は俺のパートナーなんだからな」 ヒルダの物怖じしない態度にこちらも緊張が和らいだ。 正座が馬鹿らしくなり、崩しながら答える。 彼女は一瞬ぽかんとした。 「どういう風の吹きまわしですの?」 「……と言うと」 「戦いもないのにワタクシを呼び出すなんて、貴方らしくありませんわ」 「俺らしくないって……」 そもそも俺が望んでこいつにバトルに出てもらったことは一度もないのだが。まあそれはいい。 「俺がお前の存在を認知してからまあ半月ぐらいたつわけだが、表のヒルダと会話をしたことはあっても、お前とは滅多に、いや、全く話す機会なんてなかったからな。バトル中のお前は俺の話を聞かないし」 「ワタクシを扱うに足らぬマスターの言うことなど聞く耳持ちませんわ」 お前はあれか。高レベルか。ジムバッジが足らんのか。八つ目を手に入れないと言うことを聞いてくれないのか。 「それに。茶飲み話と言っておきながらお茶がないのはいかがなものですの?」 「……それもそうだな。淹れるか」 「ワタクシは紅茶がいいですわ」 「そんなハイカラなもん家にはねーよ」 緑茶で我慢しろ。 ◆◇◆ 「意外と美味しいですわね。粗茶ですけど」 「やかましいわ」 スーパーで買った一山いくらの茶葉でもうまく淹れればそこそこうまいものである。 一人暮らしを始めて約半年、慣れれば美味い茶を淹れることなど造作もない。 ヒルダは彼女用にと購入したプラスチックの湯呑を使って茶を啜る。 「……そう言えば神姫は飲み食いできるって愛に聞いてなんの疑いも持ってなかったが、いざ目の当たりにしてみると不思議だよな」 「一応、飲むことはできますわ。濾過されて冷却系に回されますの。固形物も摂取は可能ですが、色々と面倒なのであまりワタクシは好きではありませんわ」 「面倒、とは」 「分解に莫大なエネルギーが必要ですの。エネルギーを得るための行動にそれ以上のエネルギーをかけるのは不毛でしょう?」 それは道理。もともとは人とのコミュニケーション用として考案された機能らしいからな。実用性は皆無だろう。 「食事が趣味って神姫の話を聞いたことがあるが」 「味を感じることはできますもの。ワタクシ達のAIは人間に近い思考をとりますから、美味しいモノを食べて嬉しいと感じるのは当然ですわ」 「そりゃそうだな」 「……さて、ごちそうさまですわ。戦いがないならワタクシはこれで」 「おいおいおいちょっと待てコラ」 バイザーをはめてさっさと交代しようとするヒルダに俺は待ったをかける。 「何ですの?」 「茶を飲んだだけでもう変わる気かお前」 「……お代でも取る気ですの?」 「誰がそんなもん取るか」 うちに勝手に来て菓子漁って帰るどっかの馬鹿はそろそろ警察に突き出してもいいとは思うが。いやそうじゃなくて。 「お茶を頂いた。話をした。茶飲み話という条件はこれでクリアしていますわ」 「お前についての話をしようと思ってるのにお前がいなくなってどうするんだよ」 「ワタクシの話ですの? 茶飲み話と言ったのはそちらでしょう?」 「言葉の綾だ。本当に茶だけ飲んでどうする」 「ではさっさと本題に移りなさいな。ワタクシ、回りくどいのは嫌いですわ」 本題……ねえ。 俺はため息をつく。 いろいろ聞きたいことはあるが……とりあえず。 「お前はもう一人のヒルダの事を認識してるか?」 「もちろんですわ。彼女が表に出ているとき、私も意識はありますもの」 「……はっきりと意識があるのか?」 「いいえ。夢うつつといった感じですが」 これは表のヒルダと一緒か。まあこの程度は予測範囲内だな。 「初めて起動した日がいつかわかるか?」 「二〇三七年十一月十三日ですわ」 正解。つまり、表のヒルダが自我を持った瞬間、こいつも生まれたってことだ。……こりゃ単なるバグなんかじゃなさそうだな。 「初めて戦った相手は?」 「……さっきから何を言ってますの? 愛の持つアルトレーネに決まっているでしょう?」 そう。愛にそそのかされてイーダ・ストラダーレ型を購入し、その場で起動させられてすぐにバトルにもつれ込んだのだ。 バトル終盤、リーヴェの放ったゲイルスケイグルがヒルダの顔をかすめてバイザーが破損。そしてこいつは覚醒し、暴走した。 あの時の愛の唖然とした顔は写真に収めて送りつけてやりたいほど貴重なものだったが、あいにくその筐体の向かい側で俺も同じ顔をしていたに違いない。 そしてその時のリーヴェとヒルダの痴態の録画映像が、アングラで高値で取引されているとかいう噂を聞いたことがある。信じたくもない。 ……次の質問はこれにするか。 「何でお前は戦う神姫全員にセクハラしやがるんだ。今日で被害数が二十を突破したぞ」 「敗者は勝者にとっての供物でしかありませんわ。それをワタクシがどうしようとワタクシの勝手でしょう?」 「相手の感情は無視かよ。それじゃ立派な強姦だろうが」 「敗者は地べたをはいずり回って泣くのがお似合いですわ」 「それはお前個人の考えだもんでとくに言及はしないが、地べたに押し倒して鳴かせるのはいかがなもんかと」 「あら、うまいこと言いますわね」 「褒められても全く嬉しくねーよ」 そしてうまいこと言ったつもりでもねーよ。 「というかあれだ。何でセクハラばっかりしやがる」 「趣味ですわ」 「趣味て」 「他に大した趣味もありませんので」 「なんでだよ。探せばいくらでも見つかるだろうが」 「バトル以外で表に出ているのは『彼女』ですし」 「……それはそうだが」 確かに、今日初めてバトル以外で俺はこいつを呼び出した(呼び出したこと自体が今日初めてだが)。そういう意味では、俺はこいつをヒルダという檻の中に閉じ込めていたともいえる。 「……まあ、確かに。それは悪かった」 「別にかまいませんわ。ワタクシとしては、勝つことさえできればよいのですから」 「正直なところ、それはどうかと思うが」 「何故ですの? 武装神姫は戦うために生まれた存在。戦うことに意義を見出し、勝つことで価値が生まれるものですわ」 「戦うことは確かにお前たちの根幹をなすものだろうが、武装神姫は元々人間のパートナーとして生み出されたもんだろう。それについてはどうなんだ」 「そんなもの、ワタクシの知ったことではありませんわ」 「おいおい……」 つまり俺とコミュニケーションを取るつもりが皆無である、ということか。厄介な。 「なんでそんな俺を毛嫌いしくさる。神姫はマスターに対して絶対とはいわんが従うものなんじゃないのか」 「先ほどから申し上げています通り、ワタクシは貴方をマスターとして認識しておりませんので」 認められてねーってか、くそったれ。 まあ確かに、イーダ型の基本的な性格は高飛車なものだし、むしろヒルダの性格が本来のイーダ型のそれとずれていると言ってもいいから、元々こんなもんなのか? ……神姫オーナーとしての経験値が少ないせいか、よくわからん。 「じゃあどうすればお前は俺の言うことを聞くんだよ」 「未来永劫、ありえませんわ」 「歩み寄りの精神ぐらいみせろよ!」 「貴方がワタクシに適応なさいな」 くっそ、プリインストールされた性格とは言え、腹が立つな。 「では、お話はすみましたね? ではこれで。次は戦いの場でお会いしましょう」 「あ。てめ! こら!」 あわてて掴みかかったが、時すでに遅し。俺の右手のひらの中ではバイザーをつけたヒルダがびくりと肩を震わせて俺を見上げていた。 「マ……マス、ター?」 「……すまん、逃げられた」 ため息をつき、ヒルダを離してやる。ヒルダは俺の剣幕に心底おびえていたようだが、呼吸を整える。 「……くそったれ」 「……結局、どうでした? あの……『彼女』は」 「全く話を聞かなかったよ。なんとかしてあいつの手綱を握る方法を考えなきゃな」 茶をもう一杯淹れながら俺は呟く。ヒルダのにも淹れてやると、彼女がおそるおそる喋り出した。 「あの……マスター。差し出がましいようですが、提案があります」 「……提案?」 「はい。彼女に言うことを聞かせられるかもしれない方法です。かなり荒療治だとは思うのですが……」 バイザー越しに見上げてくる彼女の視線は、どこか決意めいたものを感じた。 俺はぐっ、と湯呑をあおると、彼女に言葉の続きを促した。 ◆◇◆ 「はああああああああっ!」 「くふっ、くふふふっ」 翌日、俺たちはゲームセンターへと足を運んでいた。 今回の対戦相手はリーヴェ。こちらから挑戦した形になる。 開始三分ですでにバイザーは壊れ、裏のヒルダが表出してリーヴェに襲いかかっていた。 ……まあ、今回は想定の範囲内なんだが。 一応、こちらから指示を出しているものの、ヒルダは全く従う気配がない。それでもその一挙手一投足は着実にリーヴェを追い詰めていく。 「く……流石ヒルダちゃん、間近で見れば見るほど感じるすさまじいまでの戦闘センスですよー!」 「御褒めにあずかり光栄ですわ。再び貴女を這いつくばらせて差し上げます!」 下から打ち上げられるエアロチャクラムを副腕に搭載したシールドで打ち払い、リーヴェは距離を置く。させじと突出するヒルダ。 しかしヒルダが自らの間合いにリーヴェを捉える前に、リーヴェはすでにシールドと大剣ジークリンデの柄の結合を終えていた。 シールドが展開。内部からエネルギーの刃があふれ出すと同時に、リーヴェはそれを投擲する――! 「――【ゲイルスケイグル】!」 副腕から豪速で放たれた槍は一直線にヒルダへと向かった。極至近距離で放たれたそれをヒルダは避けきるすべがない。 「!!」 「――くふふっ」 しかしそれをヒルダは素体にあたらないレベルの挙動で避けた。左のエアロチャクラムが接続パーツごと千切れ飛んだが、ヒルダの突進自体は止まらない。 ヒルダは右手首の袖を展開。リーヴェにアイアンクローを叩きこんだ。 途端にリーヴェの膝から力が抜け、地についてしまう。 「し、しま―っ」 「くふふふふっ。それでは頂きますわ――?」 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! ――Surrender B side. Winner Liebe. いつものように鳴り響いたサレンダー。 しかし、それによってジャッジシステムが告げた勝者の名はヒルダではなく。 「――え――」 ヒルダの身体が一瞬にして0と1へと分解され、空へと還っていく。 リーヴェはそれを見送り、呟いた。 「幸人ちゃん、ヒルダちゃんは手ごわいのですよー。頑張ってくださいねー」 ◆◇◆ 「……これでよかったわけ? 本当に」 向こう側の筐体でリーヴェを回収しながら愛は言った。 「大丈夫だろう。ヴァーチャル空間で裏ヒルダが現れても、ゲームが終わればその意識は自動的に封じられる。あとは根競べだ」 俺はヒルダを胸ポケットに入れて答える。 「ヒルダ、もう一人のお前の事何かわかるか?」 「……多分ですけど、すごい怒ってます」 だろうな。だけどこっちもそれが目的だし。 勝つことを至上とし、固執する裏ヒルダに手綱をつけるには、そのプライドを叩きつぶすほかない。 そのための方法としてヒルダが提案したのは、裏ヒルダが暴走しそうになった瞬間、俺がサレンダースイッチを押すことだった。 ……行き過ぎて暴走しないよう、調整は要るだろうが。 ヒルダの勝率も落ちるし、俺自身にはデメリットしかないが他に方法も思いつかない。行き当たりばったりの作戦であることはわかっているが……。 あれだ。裏ヒルダの手綱を握るための先行投資だと思おう。普通に勝つなら勝たせてやればいいんだし。 「さて、これが吉とでるか、凶とでるか……」 俺はため息をついて、再び筐体の前に座った。 幸い、対戦相手に関しては断った面子にこちらからメールを送ることで事欠かない。 もちろんこちらの作戦に関しては伝えて了承を取ってある。 あとは裏ヒルダが折れてくれるのを待つだけだ。 俺はそう思いながらヒルダをエントリーポッドへと送りこんだ。 進む 戻る トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1765.html
私立龍ノ宮大学理事長室 そこが今現在俺、及びノア、ミコ、ユーナ(三人ともインターフェイスなんで正確には美子と優奈)の現在位置なんだが… 「はっ!ひっさしぶりだな明人!元気そうでなによりだ」 「いや、吟璽朗のじっちゃんよりは元気じゃねぇから…」 「ははっ、ちげぇねぇ!俺も兼房も若けぇのよりはなんぼも元気だからな。褒め言葉として受け取っとくぜ?」 そういって銀色の派手な扇子を片手にカラカラと大笑いする爺様との対談中であるのだ この爺様について少し説明しておこう 名は龍ノ宮 吟璽朗(たつのみや ぎんじろう) 年は75 職業は…まぁお解りだろうがここ、私立龍ノ宮大学の最高責任者、理事長 うちのジジイ、鳳条院 兼房とは若い頃からの付き合い…つまりはダチなのだそうだ そしてここ、私立龍ノ宮大学こそが今回の騒動の元になった葉月とアルが通っている大学なのだ… ついでを言えば 「しかし…ノアールさんに美子さん、優奈さんだったか?学生時代、そこそこ人気はあったのに誰とも交際していなかったお前が三人もいっぺんにたぁ驚いたな…」 三年前まで俺が通っていた大学でもあるんだ 「いや、こいつらはそんなんじゃねぇから」 「ん?そうなのか?もったいねぇな…三人ともベッピンさんなのによ」 「理事長、お戯れを…」 「理事長さんだってカッコいいよ~燻し銀?」 「おうおう、うれしいこといってくれるじゃねぇかw でも良かったぜ、お前が落ち着いたとなると涼が煩いだろうからなぁ…」 「涼さんか…元気にしてるのか?」 「お前、卒業以来全然顔ださなかっからな。多少のお小言は覚悟するんだな」 「…あ~、まぁ、なぁ…」 「一応元気にはしてらぁ。今は紅柳君の下についとる」 「薫…じゃない、紅柳教授にか?」 「アニキ、二人だけでしゃべってないで説明してくれって」 すこし拗ねたようにいう優奈 「ああ、すまない。紅柳 薫(くりゅう かおる)ってのは俺のダチで、去年からここの電子総合学部で教授をやってんだ。んで涼っていうのはじっちゃん、龍ノ宮理事長の孫でここの情報化学部の助教授をやってたんだが…なんで涼さんが電子総合学部に移ってんだ?」 情報科学部の講義は俺も取っていた うちのジジイと吟璽朗のじっちゃんの仲だから俺と涼さんも昔からの縁だったわけで色々と涼さんには世話になった いわば涼さんは大学時代の俺のセンセイだった ちなみに涼さんは香憐ねぇと同級生で同じ中学、高校を卒業した親友だったりする 当時から二人揃ってかなりの優等生、しかも美人ときたもんだ 勿体ない事に未だ二人とも独身なのが不思議でならない 「本人の希望だよ。もうそろそろ来るだろうから詳しくは本人から聞くんだな。」 「え゛ぇ゛!?呼んじゃったのか?」 「はっ、予想通りの反応だな」 じっちゃんめ、余計なことしやがって… 俺が頬を引きつらせていると控えめなノックの音の後に「失礼します」という大人しめな男の声が聞こえると共にドアが開いた 「明人、久し振り」 「お、おぅ…薫…いや、紅柳教授」 「はは、薫でいいよ」 やんわりとした笑顔、優しげな声で薫はそう言った 中性的な顔立ちは相変わらずだが少し長めになった髪を束ねていたり清潔感のある白衣姿は三年ぶりの再会であることを俺に認識させた 「ほんと久しぶりだな…」 「うん、電話やメールはしても直接会うのはほんと三年ぶりだよね。あ、彼女たちは…」 「あぁ…こいつらは」 「ノアール・H・アレッシアさんに鳳条院 美子さん、その妹さんの優奈さん…でしょ?」 「え?ええ?」 「な、なんでアタシ達の名前を?」 「ははは、葉月君から話は聞いてたんだ。それに…」 「それに?」 「あ、いや、この続きは涼さんたちが来てからにしよう」 なんかすっきりしない言い方しやがって…って、そうだ、忘れてた 「薫、り、涼さんは来るのか?」 「うん、ちょうど今日から新しい教授がくるんでその出迎えと理事長室への案内もあるからって。もうすぐ来るんじゃないか…あ、来たみたい」 薫の言葉の途中で理事長室のドアをノックする音が聞こえる 先ほどの薫の様な控え目な感じなど一切しない遠慮なしのノックの音に俺の背中に鳥肌が立った 扉が開く時がスローモーションのようにゆっくりと感じる 俺の心の中でダースベーダーのテーマのBGMが流れていく 開かれた扉の向こうにはダースベーダーなどではなく銀縁眼鏡の白衣の女性が立っていた 「爺さん、失礼するよ」 俺にとってはダースベーダーよりも恐怖の対象なんだがな… 「おお、涼、やっと来たか」 「ああ、ここに来るまで少し頼道しながら来たからね。ね?ツクモ教授?」 「ツクモ?…ツクモ……」 なんかどっかで聞いたことのある…しかもかなり最近… なんてことを考えてると扉の向こうから飛んでもない人物が現れた 「なっ!?み、ミラ?」 「若様ではないか…なぜここに?」 アメリカ・カリフォルニア州神姫BMA・ロサンゼルス支部所属、違法神姫調査官にして第五回鳳凰杯・2037 春の陣 の大会中に起きた連続爆弾事件・『アルカナ事件』を見事に解決した救世主、ミラ・ツクモの姿がそこにはあった 「へぇ、そんなことがあったのか。大変だったじゃないか」 場所は移って現在地は電子総合学部の教授室 薫と涼さんの仕事場である ミラと少しばかり話をした後お邪魔にならないようにこっちに異動したわけだ 「大変だったのはミラ達と桜さんぐらいですよ」 「桜さんもか…だったら香憐も関わっていたのだろう?」 「ええ、といっても俺が事実を知った頃にはあらかた片付いちゃってましたから」 「へぇ…若いのに優秀なんだね彼女」 「それをお前が言うなよ紅柳教授、教え子に追い越されちゃった私の立場がないだろ…」 「あ…すいません…」 「お前の性格だから仕方がないが普通のやつならかなり厭味なタイミングで謝ったな…」 薫は俺と同い年だ なのに若くして大学教授 そう、薫は超天才なんだ うーん、どうしてもコイツとフェレンツェ博士が社会的に同じ部類だとは思えんのだが 「あ、や、えと、僕はそんな…」 「わかってるって。それよりも久しぶりだな馬鹿弟子…」 うお!!いつかは来るかと思ってはいたがついに矛先がこっちに向いた!! 「三年…挨拶もナシとはどういうことだ?」 「あ、いや…」 細められた目に睨まれて思わず口ごもる俺 「うおぉぉ…アニキが押し負けてるぜ?」 「お兄ちゃんがノアねぇ以外の人にこんな風になるの初めて見た…」 そらそうだ 俺にとってこの人は『天敵』そのものだからな 「ふ、まぁ顔を見せない間にもお前の事は葉月とフォレストから聞いていたがな」 「あ、アルティもか?」 「うん、二人とも僕の講義を取ってくれているからね。ここにも頻繁に足を運んでくれるし研究の手伝いもしてくれてるんだ。助かってるよ」 俺の質問に答えたのは薫だった 「へぇ…二人が電子総合学をねぇ…つか涼さんもなんでまた情報化学部からこっちに移ったんだ?」 「むっ…それは…」 俺の質問に苦い顔をする涼さん 「『僕の研究の対象が武装神姫だから』ですよね?涼さん」 「こ、こら薫!」 「へ?涼さんって神姫に興味ありましたっけ?」 「誰のおかげで興味を持ったと思う?」 「はぁるぅかぁ……」 「照れなくてもいいのに。弟子思いの素晴らしい師匠じゃないですか」 えっと、つまり俺が神姫を始めたから涼さんも興味を持って電総合学部に移ったってこと? 「…ただ知識の上で馬鹿弟師に負けたくなかっただけだ。こいつに教わるようなことがあっては師として悔しくてならん」 なんとまぁ意地っ張りな師匠なことで… 「そういや薫、お前の研究対象が神姫って…」 「そろそろ明人にも言っておかなくちゃね」 「そうだな」 「あ?なにをだ?」 「実は僕と涼さんはある科学者の一大プロジェクトに関わっているんだ」 「一大プロジェクト?」 「僕の研究とその人、その人のスポンサーの企業とは方針が会ってね、僕たちも及ばずながら協力してるんだ」 おいおい…まさかその科学者…その企業って… 「その科学者…まさか…」 「ふ、流石我が弟子だな。感は鋭い。私たちが協力している科学者の名はフェレンツェ・カークランド博士だ」 「えぇ!?」 「そんじゃアタシ達のこと…」 「もちろん知ってるよノア、ミコ、ユーナ」 「ですが私たちは研究所であなた方のお顔を拝見したことは…」 「私たちも大学の講義だなんだでこう見えて忙しいのでね。そう何回も研究所の方へは行ったことはないんだ」 「そうなんだ…」 「私と薫をスカウトに来るとはさすがは大物、いい目をしている」 うんうんと頷く涼さんを見てやはりこの人も相変わらずだと思う俺であった 「それで?今日は何しにきたんだ?」 「ああ……今週の金曜、何があるか知ってますか?」 「なるほど、その件か…」 神姫の関係に携わっているとなるとやはりこの二人の耳にも入っていたのだろう 「ふむ、やはりお前も出るのか?」 「まぁ一応…妹の危機なんでね。それで実際神姫サークルのやつらってどんな感じなんっですか?」 「うん…現在サークルのメンバーは8人、内サードが2人にセカンド中位が5人、残る一人、会長の今居がファーストと少ないながらなかなかの実力者が集まっている。少数精鋭といったところだな」 ほぅ…ファーストランカーもいるとは意外だな… 「どれ、敵情視察に来たのなら案内してやる。私も奴らのやり方は気に食わんのでな」 「こりゃまた心強い人が味方に付いたもんで」 「何を言っている。私はお前の師だ。いつだってお前の味方のつもりだが?」 しらっとそんなこと言いますけどね師匠、だったらもう少し弟子に優しくしましょうよ 席を立った涼さんを見ながらそう思うが口には出せないでいる俺であった そんでもって案内されたのが大学の敷地内では南東に位置する第三分館の二階 サークル関係は一から三の文館に分かれているが一分館の方が建物や部屋は大きく、人数が多かったり、世間に話題性があり大学側からして利益があるサークルの方が優遇されているのだ つまり、第三分館の二階に部屋を構える武装神姫サークルは下から数えた方がいい位ってなもんだ ちなみに大学時代の俺は無所属 前半はやさぐれ、後半はノアとミコに引っ掻き回され始めていたころでサークルうんぬんなんて状況じゃなかったからな 「発足はいつからだ?」 「確か…三年前か?ちょうどお前らの卒業と入れ違うかたちで入学してきた今の会長の今居が立ち上げて今年でちょうど三年だな」 「一回生がサークル立ち上げたのか?」 「まぁ何かと苦労はあったようだが奴はなかなか優秀でな。成績もかなりのものだ…まぁ後は本人に会って直接見極めてみろ。その方が何かと…」 「効率的でいい…ですか?」 「む…まぁな」 くすくすと笑う薫 その口癖、もとはと言えば涼さんの口癖だったんだ 俺にもうつっちまってたけど そう言っている間にお目当ての神姫サークルの部室前へと到着したようだ 扉を軽くノックすると「どうぞ」と声がする 意外なことに声は女性のものであった 「……失礼します」 「はいはい~、どちら様ですか…って、あれ?紅柳教授に涼さん?」 ドアを開けた手前には身長155㎝くらいに眼鏡に三つ編みのいかにもオタクな女の子が立っていた 「邪魔するぞ、今居」 「お邪魔します、今居君」 「はい~どうぞどうぞ、今お茶を入れますから…」 振り返る彼女を見て俺は何だか次の展開を予想してしまう 「あっ!」 振り返りざまに床に延びていたコードらしきものに足を取られる 「あああああっ!」 そのまま体制がぐらりと前倒しに… 「きゃぁぁぁ!!」 そして地面へとぶつかる 「…………あ、あれ?」 そこまで予測済みだったからそうなる前になんとか体を支えることが出来た 「あ、あの…」 眼鏡がズレて素顔がちらりと見えるが…なかなかに綺麗な顔立ちをしているじゃないか なんというか… 「君はあれか?」 「はい?」 「一昔前の少年誌のヒロインか何かか?」 「え、ひろ!?わ、私がですか!?」 「それは違うぞ馬鹿弟師!」 「涼さん?」 パニックになている彼女を前に涼さんは腕組みしながら会話に割り込んでくる 「一昔前ではない、それは今でも王道だ!!」 「はぁ…」 「何を隠そう私のこの眼鏡も…」 自分の銀縁眼鏡を指さして涼さんは宣言した 「伊達だからな!」 「…………それっておもいっきり邪道じゃないんですか?」 入り口での一悶着、もといコントを終えて部屋の中で茶を入れてもらう んでもって先にこちら側から自己紹介…毎度のことだから省くけどな 「それじゃ…葉月さんのお兄さんなんですか」 「まぁね、苗字が違ってややこしいけどあいつの兄貴です」 「そうですか…それじゃ今回の一件は…」 「ああ、知ってる。だから来たようなもんだし。だけどそんなことするサークルの会長さんが君みたいな子だとは思ってなかったけどね…」 「あ、あの…それは…」 「少し事情が違うんだよ明人。ほら、今居君、彼になら相談してもいいんじゃないかな?それと、自己紹介まだだったよね」 「あ、はい…私は今居 加奈子といいます。それと私の神姫、タイプ エウクランテの」 そこまで言うと今居さんのポケットから一体の神姫が飛び出し彼女の肩に乗る 「鷹千代です」 赤い翼のエウクランテだ 「赤……もしかして『紅羽の鷹千代』?」 ノアが問う 『紅羽の鷹千代』…う~ん、俺は覚えがないなぁ… 「そのとおり、彼女らはれっきとしたファーストランカーなんだよ」 「あの、その、ファーストといっても一番下位にいるので…ねぇ」 「いいえ、カナコはもう少し自信を持つべきかと…。下位とはいえファーストランカーはファーストランカー。そう多く存在するものではないのですよ?」 「で、でも…」 うん、いや実際鷹千代のいうことはもっともだと俺は思う 下位とはいえファーストの下にはセカンドの何百体、さらにその下にはサードの何千体もの神姫たちがいるのだから それにしちゃあやはりこの子は謙虚というか神姫を私利私欲のために使うような子には見えないんだが 「でもまぁ同じファーストランカーのよしみだ。何か事情がありそうってのは十分わかったし…話してくれないか?」 「は、はい…」 話は鳳凰杯の開始一か月前までに遡るそうな ある日、部室に集まっていつものごとくだべっていると会話の話題に葉月が出てきた 「実は鳳条院のお嬢様が神姫をやっているらしい」 もともと会員が少ないサークルだけに新会員として誘ってみてはどうかという話になった もちろんそれは会長として今居さんも賛成であった そして自ら勧誘しに行こうとすると、それは自分たちでやっておくと買って出たのが 「生田君と八代君です」 「ああ、なるほどな。あの二人なら話がわかる…」 「と、いうと?」 「生田 誠吾、八代 御影、二人ともセカンド中位の実力派だ。その上このサークルでトップ2と3の位置にいる。今居が大人し目の性格してるもんだからあいつら調子に乗っててね。これがまたタッグ組ませると厄介なんだよ」 「今回のことはあとから噂で聞きました。すいません…私…こんなことになってるなんて全然知らなくて…止めようとしてもここまで大きくなってしまっていては」 伏し目になりうなりうなだれる今居さん その眼にはじんわりと涙が… 「ふ、泣くな今居。お前が悪いのではない」 「涼さん…」 「それに過ぎてしまったことは仕方がない、今は次のことを考えるべきだ。なに、大丈夫さ。この馬鹿弟子がなんとかする」 「いや、そうなんの根拠もないことの責任を人に押し付けんで下さい」 「なに?ならお前は目の前の困っている女の子を見て見ぬふりしておくというのか?」 …まったく、この人は 「誰もそんなこと言ってないでしょうが。んで、忘れてません?俺がなんで今日ここに来たのかってこと」 「ん?私の顔を見に来たのでは…」 「はいはい、敵情視察ですよ。つまり、こちとらはなっからヤル気まんまんってこった」 「それじゃ、明人」 「要するにその二人とその他大勢、全員ぶったおしゃ解決なんだろ?」 「はっはっは!言うな馬鹿弟子、150体もの数だぞ?」 「まぁそりゃ数は多いですけど、今居さんもこっちに付いてくれそうですし」 「は、はい!こんなやり方は会長としてゆるせません!」 ノア、鷹千代、レイア、ミュリエルにミコ 正直あいつに借りをつくるのは癪だが冥夜にも手伝ってもらって… あとはユーナとラン、孫市 ファースト三人、セカンド三人、サードが三人とはまた奇麗にそろったな… 「うん、作戦によっちゃ何とかなるかも知れません」 メインページへ このページの訪問者 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1566.html
ハウリングソウル 第一話 『廃墟にて』 今はもう誰もいない。かつてはそれなりに賑わっていたであろう街中を、一つの影が疾走していた。影は両の手にカロッテTMP・・・通称サブマシンガンを握っている。 影が向かう先にはマスクをつけた特殊部隊の隊員のような人影・・・・一体のMMSが立っていた。 そのMMS・・・兎型MMSヴァッフェバニーは走り寄る影に向かって両手で構えたSTR6ミニガンを連射する。 その弾丸の嵐を影は僅かに身を捻るだけで回避した。 「(・・・・・・・・馬鹿な)」 兎型MMS、ヴァッフェバニーは心の中で舌打ちをした。 「(私が今まで戦ってきた犬型はここまでのスピードを持った者はいなかった。一体奴は何者なんだ!?)」 ヴァッフェバニーはミニガンを的確な狙いと速度で連射する。今は何よりも、奴を近づかせないことが先決だ。 事実、先程から疾走する影・・・・犬型MMSハウリンは彼女に近づくことが出来なかった。付かず離れずの距離を保ちながら右へ左へとこちらを翻弄している。 「(奴の狙いは・・・・・こちらの消耗か?)」 だとすると敵の犬型は彼女を見くびっている。彼女はSTR6ミニガンを二挺装備している。事実上、弾が切れる心配は無い。その前にタイムアップでドローとなるだろう。 彼女は突撃せず後方支援を目的としていたのだ。その分装備も重装備である。 しかしつい先程、仲間の反応が消えた。恐らく目の前の犬型にやられたのだろう。 彼女達はタッグで勝負を始めたはずだった。にも拘らずこちらの損害は大きくあちらは事実上無傷である。 「・・・・・面白いじゃないか」 マスクに隠された顔で不適に笑う。ならこいつを倒せば仲間の敵も討てると言うことだ。だが今へたに動けばこちらがやられる。二人揃ってやられるよりも、まだ引き分けのほうが戦略的にましだろう。だが向こうが何かミスをしたならば一気に畳み掛ける。取りえず今はこの拮抗状態を崩さずに制限時間まで持ち込めば ――――――――――― と、動き回っていた犬型が突如として停止した。 彼女はその隙を逃さずにミニガンの掃射を食らわせる。 銃口から盛大なマズルフラッシュが瞬き一瞬、その場にいた全員の視界を遮った。 そしてマズルフラッシュが納まった後・・・・ヴァッフェバニーが掃射を止めた後には、ボロボロのテンガロンハットだけが残されていた。 「・・・・・中身はどこに行った!?」 右、左と辺りを見渡してみるもあの犬型はどこにもいない。まるで消えてしまったかのように。 「(消えた?・・・・そんなはずは)」 困惑する彼女の頭上が突如として曇った。 太陽に雲がかかったのだろうか? 否、このゴーストタウンは仮初の町。空はコンピューター制御の虚像である。確かに雲も太陽も存在するがそれはただあるだけで動いたりなどはしないはずだ。 ならば一体・・・・・・・? 彼女は上を見た。 そして廃墟となったビルの屋上に、巨大なガトリングを四問備えた巨体を見つけた。 悪魔型MMSストラーフ。 確か犬型とタッグを組んでいた神姫である。悪魔型の背面ユニット、チーグルと呼ばれる機械式副腕に取り付けられたガトリングは全てがこちらを狙っていた。 彼女は完全に失念していた。こっちがタッグである以上、向こうもタッグであることを。 「ハウ・・・・・・時間稼ぎ、ありがと」 屋上の悪魔型がそう呟く。 「結構辛かったよノワール。あとでたっぷり休ませて貰うからね?」 いつの間にそこにいたのか、フィールドに配置されているゴミ箱のオブジェの傍にハウと呼ばれた犬型MMSが立っていた。 ・・・・ハウリンだからハウなのだろうか? 「くくっ・・・・はははははっ」 ヴァッフェバニーは思わず吹き出していた。 今の状況とそこに追い込まれた自分。そしてこの二人の手腕に。 「兎型の人、降参しますか?」 ハウと呼ばれた犬型がこちらにTMPを向けている。そして屋上からはノワールと呼ばれた悪魔型のガトリングが自分を狙っていた。 「ハウと言ったな? 私が一ついいことを教えてやる。・・・・諦めないことが勝利への近道だ!!」 ヴァッフェバニーはミニガンを放り出し腰のカロッテP12に手をかける。この距離なら彼女は外さない。手をかける速度がもう少し速ければ。 ハウとノワールの銃は彼女はミニガンを放り出した瞬間に火を吹いていた。 TMPはP12を弾き飛ばし、ガトリングはヴァッフェバニーの体に命中していた。 ヴァッフェバニーは声も無く倒れこむ。それと同時に試合終了を告げるブザーが鳴った。 「マスター! 試合終わりましたよ!」 試合を終えたハウとノワールが神姫センターに設置された専用筐体から出て来た。私はそれを見て思わず笑ってしまう。 何と言ったってハウの後ろにノワールが隠れるように出て来ているからだ。妙に微笑ましく思った私は彼女達に笑いかけてこういった。 「二人ともお疲れ様だ。今日は時間も遅いしもう帰ろう」 「そうですね。ノワールも疲れてる・・・ノワール?」 「・・・・・・・マイスター」 と、ハウの後ろに隠れていたノワールが一歩進み出る。 「もっと・・・・遊びたい。・・・・今度は、神姫バトルじゃなくて・・・・普通のゲーム・・・」 あまり表情を変えずに、でも控えめにノワールは言った。 ああもう。 なんでこの子等はこんなに可愛いんだろう。私が結婚適齢期を逃したらきっとこの子達のせいだ。 「しょうがないな・・・・ハウもそれでいいかい?」 「マスターがそれでいいなら。お姉ちゃんの意見には逆らえません」 そういってハウは軽く舌を出す。畜生、可愛いよ。 私は二人を手のひらの上に乗せ、そのまま胸ポケットに入ってもらった。 入るときに二人が少し窮屈そうにしていたのはもうしょうがないだろう。だって私だって女だし。 「それじゃあ行こうか。二人は何がしたい?」 「アレがいいです! レーシング!」 「・・・・・競馬」 「「はい!?」」 2036年、Multi Movable System------MMSと呼ばれる全高15cmのフィギュアロボが当たり前に存在する世界。 中でも一般的なのが『神姫』と呼ばれる女性型MMSである。 人々は彼女達に思い思いの武装を施し、互いの神姫を戦わせていた。 様々な武装を付け、戦場へと赴く彼女達を、人は『武装神姫』と呼んだ。 NEXT
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/585.html
SHINKI/NEAR TO YOU Phase01-2 シュンにとってゼリスは初めての神姫だった。 もちろん神姫のオーナーになっていなくても、世間はまさに神姫ブーム。 興味の有無に関わらず情報は入ってくるし、ちょっと興味を持って調べればそれこそ山のように時事、伝聞があふれてくる。むしろ多種多様な情報を取捨選択する方が大変なくらいだ。 少なくともシュンたち今どきのティーンエイジャーにとって神姫とはそれくらい身近な存在だったし、すでに神姫を持ってる友人もクラスに何人もいる。 だからシュンも漠然と「神姫ってこんなんだろうなぁ」くらいのイメージは持っていた。 しかし、実際に神姫の――ゼリスのオーナーになってそうした想像はもろくも崩れ去った。 少なくとも彼女にはそうした一般的な価値観や想像は当てはまらない、その事を彼はゼリスと出会ってからのこの一週間というもの、痛感させられていた。 「ごめ~ん、待った?」 考え込むシュンの思考をふいにさえぎる能天気に明るい声。 どうやら待ち人がようやく現れたらしい。 やれやれと頭を掻きつつ、嫌味のひとつでも言ってやろうかと顔を上げたところで彼の動きはハタと止まった。 「……どうかしたの?」 目の前にはシュンの幼馴染である伊吹舞(イブキ マイ)が立っていた。 今日の彼女はいつも見慣れた学校の制服姿ではなく、オシャレな私服姿だ。 見ればうっすらとメイクもしているし、髪も普段より念入りにセットされているみたいでさりげなくバレッタで止めたりしている。 なんというか……気合が入っていた。 「ふふん、どう?」 そんなシュンの様子に気がついたのか、伊吹はその場でくるりとターンするとポーズを決め、いたずらっぽい視線で彼を見つめ返してきた。悔しいがそうした仕草がばっちり決まってる。 「……あれだな。孫にも衣装ってヤツ」 「あ~、何それすっごい淡白な反応。少しは素直に褒めてくれてもいいんじゃない、シュっちゃん?」 「……その国籍不詳系のあだ名は、いい加減やめろ」 「もう~、せっかくの休日なんだからもっと明るく行こうよ! 明るくネッ?」 「……とか言いつつ関節取るな。つーかイタタタタ……痛いっつの」 「別にぃ? ただスキンシップしてる、だ・け・だ・よ?」 そう顔では笑いながら、伊吹はしっかり間接技を決めてくる。結構本気で抵抗しながらシュンは思う。 こいつはいつもこうだ。子供の頃からこの変にアクティヴな伊吹に何度泣かされたことか知れない。さっきの私服姿を見たときは新鮮味を覚えたものだが、やっぱり全然変わってない。 というか何だか怒ってないか? 助けを求めシュンは視線を巡らせる。その目とベンチに座るゼリスの視線とが合った。 ゼリスはしばし見詰め返した後、興味なしといった感じで再び本に視線を落とした。 無視かよ。 久しぶりにマジで落とされるかも知れない。 覚悟を決めるシュンに、救いの手――いや救いの声は意外なところから出てきた。 「むぎゅう……苦しいの~っ」 ハッと気付いて伊吹が手をパッと離す。 開放された拍子に尻餅をついたジーンズの尻を払い、シュンはこの場の救い主に声を掛けた。 「助かったよ。サンキュー、ワカナ」 伊吹の胸のあたりがもぞもぞ動き、ポケットから呼ばれた相手が顔を出した。 「はふぅ~、びっくりだよ~」 「ごめんワカナ。あなたがポケットにいることつい忘れてたわ」 伊吹の胸ポケットから出てきたのは彼女の神姫、猫型MMSのワカナだ。ワカナは頭のネコ耳をぴくぴくさせながら目を回している。 「舞ちゃんひどいよ~。ボクがぽけっとでお昼寝してるときに、カンセツワザはダメ~っ」 「ごめんごめん、次からは気をつけるから」 伊吹は自分の頭をポカリと叩きながら「てへっ」と舌を出す。本当に反省してるのか。 「むぅ~、ボクはゴキゲンナナメだよ~」 「そんなこと言わないで、後でワカナの好きなもの買ってあげるから」 ふくれっ面をしていたワカナがその伊吹の一言でパッと明るくなる。 「ほんとう? だから舞ちゃん大好きっ♪」 「あたしだって、ワカナのことダ~イ好きだよ♪」 そして伊吹はワカナを抱きしめ頬ずりする。ワカナも心底嬉しそうな表情。なんというか、よく連携の取れた神姫とオーナーだ。 シュンがやれやれといつも通りの幼馴染に呆れていると、この段階にいたってようやくゼリスも本を閉じ腰を上げた。 「全く……騒々しい方々ですね。これではおちおち本も読んでいられないではないですか」 「……嘘つけ、さっきまで完全に無視してたクセに」 シュンの指摘に聞こえない振りをしつつ、ゼリスはジャレ合うふたりと向き合う。 「初めまして。あなた方がシュンのご学友である舞さんと、そしてワカナさんですか?」 「そうだよ~ん。へえ~、あなたが噂のシュっちゃんの武装神姫かぁ」 「ゼリスと申します」 そうしてゼリスはぺこりとお辞儀をした。それを見た伊吹の表情がパッと輝く。 「よろしくね、ゼリス」 笑いかけながら伊吹は握手しようと手を差し出た。しかしゼリスは差し出された手を見つめてキョトンとしている。 「なんでしょうか?」 「何って、ゼリスちゃんはまだこういう習慣知らない? 握手よ、親愛の握手♪」 伊吹に言われゼリスはポツリ「なるほど」と呟く。 「まずは初歩的なスキンシップという訳ですね。舞さんは優れた神姫オーナーであると伺っています。これも今日一日の私たちのコミュニケーションを良好かつ円滑に行うためのファーストステップということですね」 ゼリスは納得顔で伊吹の手を握り返す。 「さすがです。これで今日の必要諸用品の購入も、成功が保障されたも同然ですね」 「え……えぇ、そうね……」 洋々と話しかけるゼリスと握手を交わした終えた伊吹は、シュンのかたわらに身を寄せるとささやいた。 「なんていうか……あんたの神姫ってカワイイけど変わった娘ね」 そのままくるっとゼリスに向き直った伊吹は「さあ、それじゃいざ出発。レッツラゴー!」と腕を振りながら、互いに挨拶をしているゼリスとワカナを連れ立って改札に向かう。 後に残されたシュンは空を見上げながら心の中で呟いた。 そんなの、僕が一番よく知ってるんだよ。 ▲BACK///NEXT▼ 戻る
https://w.atwiki.jp/2chbattlerondo/pages/167.html
初回ログイン 無料パーツプレゼントKONAMI IDを作成し、武装神姫(バトルロンド・ジオラマスタジオ問わず)に最初にログインした時点で以下のアイテムがプレゼントされます。 忍者型フブキ 一体 忍装備 一式 武器「忍刃鎌“散梅”」 腰装備「忍草摺“紫蘭”」 胸装備「忍装束“紫苑”」 急速バッテリー充電器 10個(使うとなくなってしまう消費アイテム) 武装パーツ試用チケット 3枚(使うとなくなってしまう消費アイテム) その他補足他の忍装備は アチーブメント を達成すると貰えます大手裏剣“白詰草”はアクセスコードを入力すると貰えますhttp //www.shinki-net.konami.jp/info/tgs2006rpt.html 公式ページhttp //www.shinki-net.konami.jp/battlerondo/start/campaign.html
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/303.html
そのじゅうよん「そして明日は笑おう」 「ティキ。いつまでもそんな所にハマってると、大好きなフィナンシェとマドレーヌがなくなっちゃうよ?」 僕は本棚の、本と本の隙間で僕に背を向けて体育座りしているティキに声をかける。 僕の部屋のテーブルの上には、ティキお気に入りの洋菓子と、温かいロイヤルミルクティーが用意してあった。 しかし当のティキの返事はと言うと、 「……要らないのですよぉ」 ……餌付け失敗、か? あの日の敗北以来、ティキは時折唐突にこんな風に落ち込む。 思い出しては、その度に自身の不甲斐なさを噛み締めている様だ。 そしてそれは僕も同じなのだけれども。 「そっ……か。じゃあ仕方ない。これは全部僕がいただくと言う事で」 僕はそう言って洋菓子に手をつけようとする。 がたっ 本棚から聞こえるその音に、僕は笑みを浮かべて手にした洋菓子を音がした方向へ差し出した。 「無理が持続しないなら、最初から素直になろうね」 「うにゅぅぅぅ~~~~ わかったですよぉ~」 しおしおと本棚から這い出てきたティキは、テーブルの上まで器用に色々と伝ってやってくると、ちょこんと音がしそうなくらい可愛らしく座る。 ティキがそうすることがわかっていた僕は、ティキが座った事を確認し、手に持った洋菓子を改めてティキに差し出す。 ティキは不機嫌そうな顔を隠すわけでもなく、黙ってその洋菓子を食べ始めた。 「……食べる時くらいは笑って食べようよ」 無駄な事は分かりきっているけど、それでも僕はティキに笑う事を薦める。 それに対し、もぐもぐと咀嚼しながらあっさりと無視を決め込んでくれた。 ……武装神姫ってのはオーナーの指示には従うものだろうに。 でも実際のところ、彼女たちにも擬似的とは言え意思があるわけだから、オーナーの全ての欲求に答える事は出来ないんだろうと僕は思っている。 感情、意思がそこに存在する限り、常に命令に従っていては彼女達自身にストレスが生じるわけで。 大体、オーナーと呼ばれるものが人間である限り、矛盾を内包しない命令を与え続ける事は出来はしない。 そんな負荷や矛盾からの安全装置として、『非絶対服従』が用意されていると僕は思っている。……あくまでも個人的な考えで、実際はそんなもの無いのかもしれないけど。 でも、もし『絶対服従』が根底に存在しているなら、神姫達にはなぜ感情があるのか? 完全に命令を遂行する為の機械でいいのなら、もちろん感情なんてものは障害にしか成りえない。 感情や意思がある事で柔軟な対応を求めるのであれば、絶対服従なんてありうるはずも無い。 しかし現実にはオーナーの命令に逆らえず、違法改造とかを受けてしまう神姫も居る訳で。 ……なんだか話がそれた。 「お……おいしいね」 無駄な努力を繰り返す僕。こういう時、女の子の扱いに慣れる人ならどんな行動を起こすんだろうか? だけど生憎と僕は、女の子の扱いに疎い一高校生で、その手合いの経験が圧倒的に不足している。付き合った女の子に一切手を出せないくらいに。 「マスタ」 「はい?」 「こういう時は黙って見守って欲しいのですよぉ」 「……ハイ」 神姫に諭されるオーナーって一体…… って、僕なんだけど。 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……マスタ、こういう時は慰めて欲しいものなのですよぉ~」 ……なんて理不尽な!! もちろんそんな事口に出したりしないけど。 「あー、なんて言うか、元気出せ?」 「心がこもっていないですぅ」 「ソンナコトナイデスヨ、マゴコロイッパイデス」 「なんで棒読みですかぁ?」 「それはね、牛肉が入っているからだよ」 「そんな昔の、しかもマイナーなCMネタ、誰もわからないですよぉ?」 「そんなツッコミが素敵なキミにはこのお菓子をあげよう」 「元々テーブルにあったのですよぅ」 「いやぁ、やっぱりフィナンシェはセブ○イレブ○に限るよね」 「誤魔化すにしてもミエミエ過ぎですぅ」 「イヤだなぁ、ティキ。まるで僕に誠意が無いみたいじゃないか」 「今まで一緒にいて、今が一番誠意が感じられないですよぉ!」 「それはきっとティキの瞳が曇っているからさ」 「今曇っているのはきっとマスタの性根ですぅ!!」 「そこまで言うと僕が可哀想でしょ?」 「自分で自分のことを可哀想って言っても説得力無いですよぉ!?」 「そうだね。……だからティキも自分が可哀想だなんて思っちゃダメだよ」 「――!!」 何も言えないティキ。 言葉を続ける僕。 「負けた事に対する悔しさも、それに囚われてるばかりじゃ意味が無いよ。だから…… だから僕達はその悔しさを糧にしよう。時には立ち止まることも、間違いじゃないけど、ただ失敗や敗北に落ち込むだけじゃ僕もティキもそこで終わっちゃうから」 僕をジッと見つめるティキに、ぎこちないながらも精一杯の笑顔を浮かべて。 「だから、我慢しないで今はいっぱい泣いてさ、そして明日からはまた一緒に前を見ようよ。ね?」 ティキは僕を見つめたまま、ぽろぽろと涙をこぼす。 そしてそのまま顔をクシャクシャにして、わあわあと声をあげて泣き出した。 僕はそんなティキの頭を、指でそっと撫でる。 その僕の指を両の腕で抱きしめ、ティキは泣き続けた。 ひとしきり泣いた後、ティキは僕に照れた様に笑いかけ、そして何も言わずに洋菓子を口にする。 それを見て僕も照れ笑いをすると紅茶をすすった。 紅茶はすでに冷め切ってしまったが、それでも悪くないと僕は思った。 終える / もどる / つづく!
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2272.html
2nd RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~1/4』 「隠してたわけじゃないんだけど、その…………ね?」 「ね?」 と言われても、俺には何のことだか皆目見当がつかない。 キィキィと軋むオフィスチェアの上で体育座りをした姫乃は、苦笑いのような、バツの悪そうな、形容し難い顔を俺の目から背けた。 服装は昨日と似たり寄ったりの、というか年間を通してカッターシャツにロングスカート(夏は半袖、冬は野暮ったいダッフルコートを追加装備。 日ごとに色が変わるだけ)、肩甲骨のあたりまで伸ばした髪は後ろで一つにまとめ、細身のシルエットによく似合っている。 姫乃がこの狭く汚くボロく散らかった六畳一間 (フロ・トイレ別!) にいてくれるだけで空気が綺麗になったように思う。 いや、事実姫乃がいると、玄関からベランダの窓際まで幸せな香りで満たされる。 小説やドラマでよく見かける 「風に運ばれてくる彼女のいい香り」 とはこのことだったのか。 付き合い始める前から度々、講義と部活を終えた後はこうして俺の部屋を訪ねてきてくれるわけだが、未だこの幸香(造語)に飽きることはない。 それとも、慣れることはない、とでも言おうか。 人間、己が身に過ぎた幸せを恐れるものである。 手を伸ばせば触れられる所に姫乃がいることが、怖いのである。 だってそうだろう? 晴れて大学生となって一人暮らしを始めて、借りたボロアパートの隣室に俺と同じ新入生の女の子が越してきて、しかもその子は可愛さと美しさを足して二を掛けたような容姿で、さらに目が眩むほどの笑顔で俺に微笑んでくれて、そんな子が友人になってくれて、今は俺の部屋で体育座りをしてくれているなんて、今この瞬間も 「これは究極の悪夢じゃなかろうか」 と自分の正気を疑ってしまうほどだ。 ――幸福が過ぎる夢は、目覚めてしまえば重荷にしかならないのだから。 「そうか。 ならば私がその重荷を降ろしてやろう」 いつの間にか俺の肩によじ登っていた姫乃の神姫 『ニーキ』 はそう言うや俺の頬を抓った。 いや、神姫の手のサイズだと、抓るというよりは、 「痛い痛い痛い痛い痛い痛いっての!! お前のサイズでほっぺつねりやるとなあ、蟹に挟まれるみたいに痛いんだぞ!!」 「ニ、ニーキ駄目! どうしたのよいきなり弧域くん攻げ……あああああほら内出血してる!」 椅子から転げ落ちそうになるくらい慌てふためく姫乃とは対照的に、ニーキはあくまでクール(?)に 「そんなもの唾でも付けておけば――ヒメ、君の唾である必要はないんだぞ」 と言い放った。 くそ、もう少しだったのに余計なセリフを吐きやがる。 というかハナコといいニーキといい、神姫ってやっぱり読心機能ついてないか? 「いくらコアセットアップチップが高性能だからって、人の心が読めるわけないだろう。 それと弧域、君はヒメに舐められたいのか?」 「ばっちり読んでるじゃねぇか!!」 姫乃の神姫だから持ち主に似て可愛らしいものだとばかり思っていたのだが、よくよく考えると “神姫は持ち主に似ない” ことは貞方とハナコが一片の矛盾も無く証明していた。 「しかし、どんな男かと思えばこんな奴だったとはな。 ヒメが毎日のようにこ――」 「あー! わー! もうニーキ、少し大人しくしてて!」 姫乃に掴み上げられ、パソコンを常備している机の上に降ろされたニーキは言いつけ通り、澄まし顔で大人しくなった。 黙ってさえいれば、悪魔型神姫・ニーキは武装がなくとも神姫としての魅力に溢れている。 空色の髪をツインテールにして、身体は黒を基調とした悪魔色が鈍く光る。 引き締まった顔に尖った耳がよく似合い、バトルの時は氷のような眼差しと凄惨な微笑みが鉄槌を下すのだろう。 フィールドに立つ、ただそれだけでストラーフ型はオーディエンスへのパフォーマンスとなる。 ……それを姫乃が分かっているかは別の話だが。 「なあ姫乃。 なんで神姫を買おうと思ったんだ?」 「それはもう可愛いもの。 すんごく可愛いんだもの。 工大駅前のヨドマルカメラで電球探してたら、おもちゃコーナーの前でストラーフ型神姫がこう、手を振ってくれてね、一目惚れしちゃったの」 貯金はだいぶ減っちゃったけどね、にはは。 と苦笑いする姫乃に、ニーキを買ったことを後悔する素振りはまったく無い。 「ヨドマルなら神姫に呼び込みさせたりもするだろうな。 ――誰かに誘われて買ったり、じゃなくて?」 「ん? 私の周りはホイホイさんばっかりよ。 神姫持ってるのは鉄ちゃんくらいかな」 「ふうん、そうかそうか。 うん、そうだよなあ」 「?」 ツマラナイことで頭を抱える必要など無かったのだ。 姫乃が浮気? 無い無い無い無い断じて無い。 先程までの杞憂は、そう、ちょっと貞方に遅れを取った焦りから生まれたものだったのだ。 ……と強がってみても、心配など皆無、と言えば嘘になる。 一ノ傘姫乃の魅力があれば男なんて選び放題好き放題だろうに、何故俺なんかを選んだのか、姫乃が隣にいる時はそんな不快な考えばかりが頭を過ぎってしまう。 たかが人形一体で勘繰ってしまうほどに。 姫乃の裏の顔を想像してしまうほどに。 「どうしたの弧域くん。 顔が怖くなってるよ?」 そんな俺の一人相撲を知ってか知らずか、姫乃はまた椅子の上に戻って体育座りしている。 裏の顔、ね。 そんなものがあっても俺はすべてを受け入れる、なんて歯の浮くような台詞を吐くつもりはないけれど、ドス黒い姫乃というのも、それはそれで悪くない。 「しかし姫乃も神姫マスターだったとはね。 俺も買おうかなあ。 んでもってニーキと勝負してみたりさ、楽しそうだぜ」 「え? ……あ、うん、そう……かな」 姫乃の顔が再び、なんとも形容し難いものに戻った。 さっきからどうも様子がおかしい。 分かり易過ぎるほど神姫の話題を避けているようだが、その割にはヨドマルでの出会いをあっさりと白状(告白?)してみせたし、目を逸らすのは決まってどうでもよさそうな話の時ばかりだ。 思えば、俺が神姫の話をしようとした時も、興味がないフリをして話題を避けているようだった。 俺が小一時間ほど “不出来なCDほどフリスビーに向いているのは何故か” を語った時も話に乗ってくれた (というより説教された) 姫乃が、何故こんな話題に口ごもる必要がある? 思い当たるふしは……あー、カツカレーの食べ過ぎだろうか。 「カツカレーで何かが変わると思っているのか。 ヒメ、君の彼氏は馬鹿だぞ」 「心を読むな! そしてもうちょっとオブラートに包めよ!」 「否定はしないんだな」 「お前、人の揚げ足取るの大好きだろ」 「君が見下げ果てた野暮天だからヒメが困っているんだ」 「ちょ、ちょっとニーキ、あんまり――」 「たまには言葉で真っ直ぐ伝えてやるのもこの男のためだぞ、我がマスターよ」 「~~~~っ」 ニーキは言いたいことを言い終えたのか、再び元の寡黙な人形に戻った。 その隣で椅子をキイキイと揺らす姫乃は自分の膝に顔を埋めて――黒髪の間からのぞく耳を真っ赤にしていた。 「言い難い事、あるのか?」 こくり。 頭を縦に動かした。 「怒ってる、とか?」 ふるふるふる。 頭を左右に振った。 「悲しい事だとか」 ふるふるふる。 「あー、じゃあ恥ずかしい事だとか」 こくりこくり。 恥ずかしいこと? 今までの会話のどこに恥ずかしがる要素があった? ますますわけがわからない。 一人で混乱していると、くぐもった声が聞こえてきた。 「……だって、神姫なんだもの」 「うあん?」 「弧域くん、神姫――欲しい?」 「え、くれるの? でもなあ、ニーキはちょっとキツいしなあ、」 「ニーキは駄目。 そうじゃなくて、自分の神姫、買いたい?」 欲しいかと問われれば、そりゃあ欲しい。 着せ替えのように武装させてみたいし、バトルだってさせてみたいし、この隙間風が寂しい部屋に神姫がいれば少しは寒さも和らぐのかもな。 だが、物はいつか壊れる。 熱力学第二法則(第一だったか?)がある限りどんな物でも例外ではないし、神姫だってもちろんその例に漏れない。 負担が掛る可動部はメンテナンスをしていても取り替えが必要になるし、バッテリーも技術が進んだとはいえ充電を繰り返すごとに容量が減っていく。 これらはまだ取り替えが効くからいい。 だがCSCなんて、外部からの衝撃でどんな影響を受けるか分かったものではない。 ――ホイホイさんになぶり殺しにされたマオチャオがそうだったように。 未だあのマオチャオが、持ち主だった弓道部部長の泣き叫ぶ顔が、頭から離れないのだ。 ……あんな別れ方をするくらいなら、最初から神姫なんて持たないほうがいい。 「どうだろうな。 欲しいような気もするし、欲しくないような気もする」 「どっちよ。 欲しい? 欲しくない?」 「俺にもよく分からないんだ。 神姫で遊びたくもあるし、なんつーかほら、犬とか猫とか、死に別れが嫌だから飼いたくないってよく聞くだろ。 あんな感じ」 「弧域くんっていつもはハッキリしてるのに、たまにものすごく優柔不断になるよね」 何故俺は責められてるんだ? 「いいだろ別に。 ハッキリさせなきゃいけないことでもないし」 「よくない」 「いいだろ」 「よくない」 「なんで」 「だって…………よくないんだもん」 姫乃が何を言いたいのか分からないが、少なくとも二人の間うっすらと見える溝をゼネコンが本腰を入れて掘り始めたことだけは確かだった。 俺にどうしろってんだよ、ゼネコンは誰の命令を受けて着工したんだ。 国か? 国なのか? 国土交通省のせいで俺達は付き合ってから初となるケンカをしようとしているのか! 「何がよくないんだよ。 俺が神姫を買っちゃ駄目なのか?」 「駄目っ! ……じゃない、けど……」 「なら買わないほうがいいのか? そりゃあ神姫は高いからな、そう簡単には買えないけどさ」 「そうじゃなくて、そうじゃないの!」 「どっちだよ! 俺は買うべきなのか、買っちゃ駄目なのか!」 「だって! ……だって……」 「だってだって、さっきからそれば――」 言いかけて無理矢理口を噤んだのだが、もう遅かった。 さっきよりも顔を真っ赤にした姫乃が、目に涙を浮かべて俺を……敵のように、睨んでいる。 怒った顔も可愛いんだなあ、なんて考えてる暇があれば謝罪の言葉の一つでも出せばいいものを。 何が悪かったのか皆目見当もつかない俺はどう謝っていいかも分からない。 言葉が出ない。 ぐぅの音も出ない。 希望も何も出てきやしない。 ああ、こりゃもう駄目だ、嫌われたな…………短い春だったな………… 「だって…………だって…………神姫だって、女の子なのよ!!」 「……………………は?」 「神姫はずっと持ち主の側にいるのよ! 弧域くんがもし神姫買ったら、弧域くんはずーっとその神姫と一緒なのよ! わ、私がいない時も!!」 「……………………」 「そんなの! ……そんなこと………………嫌なの」 「……………………」 「ごめんね。 幻滅したよね。 私、すごく嫉妬深いんだ」 「……………………」 「嫌いに、なったよね」 「ンナワケねぇだろおおぉぉぉおおがあぁぁぁああぁぁああああ!!!!」 椅子の上で丸くなっていた姫乃を抱え、ベッドに放り投げた。 「きゃっ!?」 ああもう、悲鳴も可愛い! あっけにとられた顔も可愛い!! こんなに可愛いのに? こんなに愛くるしいのに? 頼まれても嫌いになれるものか!! 「ちょ、ちょっと、弧域くん? 落ち着こう、ね?」 「安心しろ。 俺の頭は今、一面のコバルトブルーだ」 「晴れてる! 頭が晴れてる!」 目を丸くした姫乃に覆い被さるように手をついた。 アルミ製のベッドがギシギシと今にも崩壊しそうな音を立てた。 このベッドもついにシングルからダブルに昇格する時が来たか(?)。 自分の呼吸がどんどん荒くなっていくのが、他人事のように感じる。 体が、心臓の鼓動が、自分のものでないような感覚。 だがそれでも俺は、自分を見失うわけにはいかない。 俺は今、姫乃の目やら唇やら何やらを凝視するのに忙しいのだ! 「あ、あの、私まだ心の準備といいますか、心臓がドキドキして苦しいんですけど……」 「安心しろ、俺もだ。 だがそんなもの、勢いだろう?」 「い、勢い? そ、それにね……その……」 「まだ何かあるのか。 そうだな、今の内に全部言っておくといい」 「まさかこうなるなんて思ってなかったから……」 「うん、そうだな」 「………………今日の下着、あんまり可愛くないの」 「さらば理性ィ!!」 カッターシャツのボタンを一つ一つ外すのも間怠っこしい!! 安心しろ姫乃、今直ぐ全ボタンを引きちぎって、その可愛くない下着とやらを拝んで―――― 「獣め、そんなに規制されたいか。 レールアクション『血風懺悔』」 ずっ。 そんな音が眉間の辺りから聞こえたかと思うと、勢い良く赤いものが飛び出してきた。 「うおおおおおおお!?」 なんだこれ、なにがあった、興奮しすぎて血管が切れたか!? とにかく止血しようと、ベッドに頭を押し付けた。 「きゃあああああああ!? 弧域くん大丈夫!? え~っと、え~っと、そうだ、頭より心臓を高くしないと!」 「『血風懺悔』――受けた者は血風を撒き散らしながら許しを乞うように頭を地になすりつける」 私の得意技だ。 と勝ち誇るような声が聞こえる。 腹立たしいくらいニヒルに笑っているのだろうが、今は視界一面が血で濡れたベッドカバーだ。 「ニーキ!! 弧域くんに恨みでもあるの!? 初対面でしょ!?」 「ヒメも案外野暮天なのかもな。 君達は君達が思っているよりもずっとお似合いの仲だ」 「おいコラ、マジで血が止まらねぇぞ!」 「どういうことよ」 「さっき自分で言っていただろう、 “神姫だって、女の子なのだよ”」 「こ、このやろう人様の眉間に穴空けといて無視かよ……上等じゃねぇか、この借りは神姫バトルで返してやる!!」 叫んだことで穴が広がり、ベッドのシミはさらに広がっていった。 このとき俺は、絶対に武装神姫を買ってニーキを同じ目に合わせてやることを、固く心に誓った―――― NEXT RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~2/4』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2186.html
「――――ッ!!」 今度こそ飛鳥を捉えたかと思ったが、またしても手応えは無かった。 私の目の前にあるのは、外皮がコクリートが深々と抉り取られ、内部の鉄筋が露出している電柱だけだ。 それに此方の切先が命中する寸前に視界が白煙によって遮られ、現在もその煙は晴れずに、しかもレーダーが妨害されて電子的な索敵が行えなくなっている。恐らくスモーク弾とチャフを併用してバラ撒きつつ離脱したのだろう。 「子供だましを……」 急速上昇して効果範囲から離脱し、再度レーダーで飛鳥の機影を探す。陸戦ならまだしも、3次元空間を比較的自由に動ける空戦でスモークを焚いた所で一種の目くらまし程度にしかならないのは明白だ。 「……ちっ」 だがレーダーでは中々相手の機影を捉えきれない。恐らくはその運動性を生かして住宅の敷地内などを縫うように低空飛行しているのだろう。 しかし飛鳥型は最大速度では此方に大きく劣る上に、そのような飛行をしていては、この短時間に此方との距離を大きく取る事は出来まい。それに最初の逃走方向から大雑把な目的方向は予測できる。 「一瞬を見逃さずに……」 システムメモリの大半を目視を中心とする索敵に割り振り、鋭く目を配らせる。 ジリジリと時間だけが経過し焦りが募るが、このまま諦めてしまうわけには絶対にいかない。あんな破廉恥な物が私の手の届かない所に存在してしまうという事自体が大問題だ。更にもしもインターネット等に一度流出してしまったならばその回収・隠滅は不可能になり、私の人生は汚名に満たされた一生になってしまうだろう。 いや、私自身だけならまだしも、アキラまで汚名を被る羽目になったなら……私は…… 「――ヤツを絶対に、逃がしてたまるかッ」 一刻も早くヤツを発見する為に焦る怒りをねじ伏せ、ギリ、と唇を強く噛み締める。アドレナリンからの影響なのか、それとも屈辱からなのか、口の中に苦い味が広がり私を一層不快にさせる。 行幸と言うべきだろう。その時、民家の軒下を潜るように疾走していく飛鳥の姿が、私の目に飛び込んできた。 だが次の瞬間、ヤツの影はとある家屋に吸い込まれるようにして消えてしまった。そこは1区画まるごと1つの家になっているらしい、複数の平屋式日本家屋と多くの深緑が広がる、広大な邸宅だ。 そして上空で監視する事、数分。ヤツの姿は、何処からも出てこない。 「……つまり、あそこが本宅か」 ニヤリと、口端が浮き上がるのがわかる。 「――――フ、フフフフフフフフ」 ゆっくりとした動作で、先程磨耗したパイルバンカーに装填し、体制を整える。コキコキと指先が鳴り、アドレナリンが沸騰してくる。 「ブラッディィィ……ブレイクッ!!!!!」 飛鳥が消えた家屋の直上から、瓦を吹き飛ばし、木材を圧し折り、板を粉砕し、100万ボルトの稲妻のように突き抜ける! 「出て来い!…………跡形も残さず――破壊してあげるから」 もうすぐあの飛鳥を粉砕できるかと思うと、私の全身を禁断の果実を食したかのような高揚感が、ゾクゾクと駆け抜ける。 バラバラと粉砕された木材が散乱し煙が舞い上がる中、私はヤツの姿を追い求める。 「あら……。これはこれは、ごきげんよう。招かれざるお客様」 「ッ!?」 後ろからの突然の声に、反射的に振り向く。だが其処に居たのは飛鳥型の姿ではなく、こんな状況でありながら余裕を湛えた微笑を浮かべる、和装をした長い黒髪を持つ少女の姿だった。 ~ネメシスの憂鬱・ファイルⅩⅢ~ 「嗚呼これは失礼を。招かれざるお客様に対しても礼儀を尽くしませんと。 わたくしの名は『黒姫 鈴乃』。以後お見知り置きを」 そう一方的に名乗ると、優雅な動きで一礼する少女。 「しかしあいにくと、貴方には招待状は出してございませんの。 今なら何もなかったことにして差し上げますゆえ、お引取りを願えますかしら?」 微笑を浮かべたまま、氷のような瞳で見つめてくる少女。ただ佇んでいるだけなのに、その蒼い瞳からは凄まじい威圧感を感じる。 「――そんな物は関係ない。 私はただ此処に逃げ込んだ飛鳥型神姫の持つ、マイクロチップとデータを引き渡して欲しいだけだ」 だが……此処で怯む訳にはいかない。 「あら、そんな小鳥はここには居ませんわ。それとも此処に逃げ込んだという、確かな証拠でもありまして?」 「ずっと上空で監視していた。それにレーダーのログもある。これでは不足か?」 「えぇ、不足ですわね。 ログと言っても貴方の頭の中にある情報でしょう。貴方ご自身で改竄されてないとも限りませんからね。いきなり天井を突き破っておいでになられるような無粋な方など、とても信用出来ませんわ」 その飄々とした喋りに、私は不快感で一杯になる。だがその彼女の話し方は、私により以上の確信を抱かせる。この話の展開の仕方……いや、この話の逸らせ方はあの飛鳥と酷似している。 「――――埒が開かないようだ。此方は此処しか情報が無いし、貴方には真実を語ってくれる気は無いようだ」 「えぇ、そうですわね。それで、貴方はどうなさるおつもり?」 「……ならば、力ずくで探させて貰う!!!」 まずは邪魔な彼女を排除する為、翼下のハードポイントにセットされたスタングレネードをまとめて発射する。直撃すればスタンガンと同じように高圧電流が駆け抜け、たちどころに行動の自由を奪うだろう。 「――フ」 だが彼女は逃げる動き1つしないどころか、不適な笑みさえ浮かべながらその場に立っている。 「なにっ!?」 その理由はすぐに判明した。飛翔するグレネード弾が彼女に命中する寸前で全て爆発してしまったのだ。 そして次の瞬間には、側面方向から私へ向けて複数の銃弾が襲い掛かってくる。 「しまっ!?」 ギリギリの所で滑るように回避マニューバを行い、殆どの弾丸は回避したものの、1発が『レネット』の装甲に当たって1次装甲を突き破られてしまった。 「お嬢様には、指一本触れさせない」 「チッ……」 回避する為に気を逸らした隙に移動したのだろう。少女を守るようにその前に佇み浮遊する、1人の神姫の姿がある。 その神姫……顔からムルメルティア型と判断できる……は、自らの身長よりも長い大型の狙撃銃を持ち、足首からは光の翼のようなフライヤーフィンが煌めき羽ばたく様に展開している。恐らくはそれで浮遊をしているのだろう。 「先程のはサービスです。次は全て命中させてみせます」 だが面妖にも、その神姫は何故かロングドレスのメイド服を着こみ、頭にはご丁寧にカチューシャまで着けている。殺気に満ちた表情とは対照的でいささか困惑してしまう。 尤もそれが目的でそのような姿をしているのであれば、此方も油断するわけにはいかない。何しろ比較的低速とはいえ飛翔するグレネード弾を全て撃ち落したのだ。少なくとも、射撃の腕に関しては非凡といわざるをえない。 「アガサ、や~っておしまい」 「お嬢様、そのセンスは古いです……」 30年以上前の国民的?アニメのセリフに少し困惑した様子をみせながらも、両手で抱えるように所持していた実弾式大型ライフルをゆっくりと威嚇するようにしながら此方へ向け、構える。 「二度目は……ありません」 「く……っ」 狭い室内、しかも正面から向かい合っていている状況下では、此方の高速装備ではかなりの不利は免れない。 ジリジリと間合いを計るように後退し、反撃の隙を狙おうとした、その時。 「――お姉様の凛々しいお顔と、ネメシスちゃんのボンテージ姿、同一カットでゲットですわー♪」 パシャリと光を浴びせかけられ、同時に緊張感で水を打つように静かだった空間に、パシャリと無思慮なシャッター音が木霊する。そしてシャッター音とフラッシュの光源の元に居たのは…… 「そ、そこの飛鳥ぁっ!!!」 「……あ゛!」 急いで物陰に隠れようとするが、急旋回が祟ってゴンと家の柱にぶつかり、そのままみっともなくずるずると滑るように落下してゆく。 「……居たが?」 ギギギ、と軋む首を鈴乃とアガサ、2人の方へ恨みがましく向ける。 「あら、何か居ましたわね。でも余所の子でなくって?」 「そ、そんな酷いですわっ。鈴乃お嬢様ぁ!?緋夜子(ひよこ)は、身も心も鈴乃お嬢様の神姫ですのにっ」 視線の先には先程から表情の変わらない鈴乃と、こめかみに手を当てて頭を抱えた様子のアガサの姿があった。 「……どうやら、馬脚を現したようだ。今度は逃がさん――――フ、フフフフフ」 ペキペキと指が鳴る。ヤツの頭部を粉砕するだけでは飽き足らない。さぁ……どう料理してくれようか。 「――――待ちなさい。私が相手だと言った筈です」 すぅっと空中を滑るように、私と飛鳥型……緋夜子と言ったか……の間に割り込んでくるアガサ。 「邪魔をするなメイド。――この位置なら、一緒に葬ってやる」 LC3レーザーライフルの出力ゲージをMAXにセットし、照準を2人に向けて合わせる。先程は人間を巻き込み殺傷する可能性がある以上、最高出力はプロテクトにより発射出来なかったが、今度は違う。最高出力で2人まとめて吹き飛ばしてやろう。 「どうぞお撃ちなさい。でも、『ネメシス』ちゃん?。可愛い神姫が暴走神姫として廃棄処分になったら……『アキラちゃん』でしたっけ。とてもとても悲しむでしょうねえ……ふふふ」 「なっ!?」 その名前を聞いた瞬間、ピタリと2人を捉えていた照準が、AIの、身体制御の異常によって激しくブレる。心臓に無形の槍を突き立てられ、抉りまわされているかのようだ。 「貴様……自らの神姫を犠牲にしてまで、私を貶めようとするのかっ!?」 「あら、先に仕掛けたのは貴方。それに貴方の求める物を、まだ緋夜子が持っているとは限らなくてよ?」 和装の袖で口元を隠し、くすくすと笑う鈴乃。ヤツは人を貶める事を、心底面白がっている…… 「さぁ、貴方はどう動くのかしら。楽しみねぇ」 ヤツの言葉はブラフかもしれない。今撃てばデータを消し去れる可能性は、半分はある。 だが今、ヤツは私とアキラの名前を出した。特に公式試合にはリングネームで出場しているアキラの名前を知っているという事は、私たちの身元を多かれ少なかれ把握しているという事に他ならない。 「………ッ」 ギリ!、と皮膜が破れオイルが滴るほど、この手を強く握り締める。 「――――何のつもり、かしら?」 私はゆっくりと下降して地面に降り立ち、武器を捨て去り、その身ひとつで、土下座をしていた。 「――私はどうなっても、構わない。殺してくれても、いい。 だから……だから、アキラだけには……手を出さないでくれ……!」 深々と地面に頭を擦りつけながら、憎しみと恥辱と敗北感でオーバーヒートしそうな思考の中、搾り出すような声で懇願をする。 悔しさと情けなさで、涙が止まらない。だが今の私には、こんなことしか残された手段がないのだ…… 「……しょうがないわねぇ」 その鈴乃の今までと明らかに違う軽い口調に、思わず顔を上げる。そこには、くっくっと愉快そうに笑う鈴乃の姿があった。 「私も鬼ではありませんから。そこまで貴方が懇願するのなら、チャンスを差し上げましょう。 見事チャンスをモノに出来たのならば、データは消去しましてよ。そして――失敗したならば、貴方の言うとおりにすると致しましょう」 「…………有難う。――チャンス、とは?」 本来被害者である私の方が、有難うなどと言わざるを得ない、この屈辱。だが屈辱に耐えなければ、私たちの未来は永劫に暗黒の光に覆われてしまうだろう。 「私の神姫と戦い、勝ちなさい。 貴方に真に守るべき者と信念があるのならば、例えその身を滅してでも、自らの力量を以って道を切り開きなさい」 「――――承知」 再び大空を見上げるようにその顔を力強く上げ、地獄の業火の熱さを持つ灯火の宿った瞳が、鈴乃の凍てつく瞳とその視線が交差する。 「――――良い表情ね。それこそ武装神姫の顔だわ」 「当然だ。――――私は……アキラの誇るべき、武装神姫だ」 立ち上がるんだ。自らの足で、自らの力で。自分の汚名を、自分自身で晴らす為に。 「所で、その格好なんだけど……私は構いませんが、着替えた方が宜しいのではなくて?」 再びその表情を崩す鈴乃。今度は何か失笑を抑えきれないような、いや既にこらえきれずに笑い出している。 「……? 一体何……を……ををを!?!? 」 その姿は、エルゴの店内で診断を受けていたときの姿のまま……SMチックなエナメルボンテージの衣装のままだったのだ。しかも髪も衣装にも精液がこびりついて、一部は既に乾燥してカピカピになり始めている有様。 更に今の今まで気づかずに、この恥辱にまみれた格好で街中を滑走し、緋夜子を追いかけ、鈴乃相手にタンカをきっていたのだ。 「……きゅぅ」 そう思考が現実に追いついた瞬間、私の羞恥心はその限界を一瞬で突き破り、気を失った。 Web拍手! 続く トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/636.html
左腕と左脚、左の乳房のみを「サイフォス」ベースの装甲で覆った姿でエルギールはヴァーチャルスペースに現れた 金管楽器の様な凄まじく派手な銀色の装甲は、今回のフィールドである湖畔の風景を見事に天地逆さまに写している 『随分軽装だな?まぁホントの白兵戦になりゃぁ神姫用の武器は「避けられない」方がヤバいって言うし、ある意味ありっちゃありか?でも所詮そんだけだろ?ビシッとキメてやろうぜ!華墨』 (確かに軽装だ・・・が・・・・) 武士の台詞を華墨は半分聞き流している ここ数回のバトルで、華墨は少しずつではあるが自らのデフォルト武装の取捨選択を始めていた 初戦の教訓と「どうせ相手に密着するのだから」という事で、十字戟もメインボードから外し、主力武装は腰の大小に、やや肩周りの可動を阻害する肩当を捨て、ジョイントを介して「垂れ」の部分だけを直接装備、鬼面と喉当ても外していた 最後の二つは今回のバトルに際して急遽実行したのだが、それというのもポッドに入る前にちらりと、エルギールの主力武装とおぼしきものを目にしたからだ それは剣呑な黒い刀身に、禍々しい朱い模様がうねうねと描かれた、非常に大振りなダガーだった(殆どショートソードと言っても良かったかも知れない) 神姫が外出する時に、手持ちの得物の中から携行に便利な物を選んで持ち歩くというのは聞いた事があるが、華墨には何故だか判らないがそれが「護身用の武器では無い」という強迫観念めいた確信があった それで、視界と装甲の二択に(勝手に)迫られて、結果折衷案で、「兜は残して仮面は外す」という結論に至った訳だ いずれにしても、未だに胸の奥をざわざわと撫でられる様な感覚はおさまらず、目の前の軽装な姿を、武士程楽観視出来無いのだった 第伍幕 「Merciless Cult」 自分と相手の戦力差がどの程度なのか?正確に把握するには結局ぶつかってみるのが一番良い。華墨は覚悟を決めた ざくざくいう足音と共に、バーチャルの下生えが踏み潰されてゆく。(いける、いつもの私だ)ポニーテールを地面に水平になるくらい迄浮かせながら華墨は走る。右手で太刀を抜き放ち、気合一閃、一気にエルギールに斬りかかる! 白刃が虚空に白い影を描き、華墨の天地は逆転する。遅れて知覚される苦痛 「ハン!速さと装甲にモノ言わせて真っ直ぐ突っ込んで殴るだけの、単なるゴリ押しじゃない!?案の定大した事無いわね?」 (なんだ!?何をされたんだ?今!?) 地面を抉る程に叩き付けられた華墨だったが、即座に立ち上がり、エルギールから距離をとる 「どうしたの?躓きでもしたのかしら?ホント情っさけ無いわね」 憎まれ口を叩くエルギール。その手に武器らしきものは握られていない。華墨が警戒していた短剣も、まだヒップホルスターの中だ 「・・・」 「つば」を鳴らして太刀を構え直す。いつもの様に、加速をつける為の攻撃型ではなく、切っ先を相手に向けた防御よりの型だ 「・・・アタシってそんな気が長い方じゃ無いのよね・・・来ないんなら」 ヒップホルスターから短剣を抜き放つエルギール。一瞬、朱色の模様が生物の様にうねった・・・様に感じた 「こっちからブン投げてやるまでよォ!!」 「!!」 明らかに短剣が届く間合いではなかった、が、エルギールの剣は鋼線で接続されたいくつかの節に別れ、異様な動きでもって華墨の左腕に巻き付いたのだ。食い込んだ刃が、華墨の人工皮膚を・・・裂く 「くそっ!!」 鋼鉄の毒蛇に腕を拘束されたまま切り込む華墨。だが、引き手を殺されたへたれた斬撃は、あっさりとエルギールの腕甲でいなされ、挙句そのまま首を掴まれる (・・・ぐっ!) くぐもった呻きが漏れる。それは人間的な条件反射だが、神姫が「人がましく」振舞う為に動きの基礎に組み込まれている 「けだものを捕らえるには罠を使うでしょう?アタシはその罠。さぁ、ホントのアタシのフルコンボってやつを見せたげるわ!!」 首を掴んだ左手が捻られる、同時に右足が払われ、左腕の拘束を引き外す動きでそのまま吊り上げられる (これが・・・!?) 「まずは天(転)」 異様な体勢で転ばされ、なんとか残った右腕で受身を試みる 「間に人(刃)」 ぞぶりだかどすだかいう様な汁っぽい音と共に、引き抜かれ空を舞っていた刃が右腕に突き刺さる たまらず、そのまま顔面から地に倒れ付す華墨。打撃系の衝撃が、装甲ごしにでも強烈なダメージを全身に及ぼした 「最期は地に血の花を咲かせて逝きなさいな!アンタの名前に相応しい幕切れじゃない!!」 エルギールの哄笑、無理矢理体を起こそうとする華墨だが、最早戦闘能力が無きに等しいのはいかなる目で見ても明白だ (立ち上がる・・・ちから・・・) 武士が何かを叫んでいた、残念ながら華墨には何を言っているのか全く判らなかったが・・・ (ここで立ち上がる・・・ちからが・・・) だが、そんな力は華墨の中には無かった。愛も、怒りも、不屈の意思も、未だ華墨は本当の意味で理解など出来て居なかった 虚ろに過ぎるジャッジのマシンボイスを、ヴァーチャルスペースに全く意識があるままに、華墨は聞いていた 「華墨・・・負けちまったのか・・・?」 武士は腰を浮かせて、呆然とディスプレイを見ていた その肩に琥珀の小さな、冷たい手が掛かる迄、武士は彼女が入ってきた事にすら気付いていなかった 「ね、判った?闘うってこういう事なんだよ。体はヴァーチャルでも、彼女らが感じる恐怖は本物なんだ。」 小さな、だがはっきりした声だった 「だって・・・武装神姫って、バトルする為に創られたんだろ?」 のろのろと首を回す武士。琥珀の、多分名前の由来なのだろう琥珀色の瞳は、感情を深い所に隠していて、思考を読み取る事は今の武士には不可能だった 「確かに彼女達は闘う為に創られた。でもね、闘争本能を持たされていても、彼女達が本当に闘いを望んでいるかどうかは判らないんじゃないかな?」 「・・・え?」 「判らない?君は彼女のマスターだけど彼女は本当の意味で『君の神姫』になっているのかな?」 「当たり前だ!神姫は登録した人間をマスターとする様に出来てるんだろ?」 語気を強める武士、だが琥珀の口調にも表情にも、僅かな変化も見られなかった 「プログラムされた知性、プログラムされた感情、なら、忠誠心だってプログラムされたものなんだろうね」 「・・・」 にこりともしない、が、別に怒りも悲嘆も、いかなる色も彼女の表情には現れないのではないかと、武士は思った 「・・・」 「プシュ」と空気の抜ける様な音がして、華墨のバトルポッドが開く ゆっくり顔を上げる華墨に一瞬目をやってから踵を返す琥珀 「じゃ、するべき事はしたから・・・縁があったらまたね・・・」 視線だけ二人に向けて言い放つと、もうそのまま、むにむにと柔らかい足音だけ残して琥珀は去っていった 「・・・負けてしまったよ・・・マスター・・・」 「・・・あぁ・・・」 ここで取って付けた様な労いの言葉を吐く事が出来るのか?吐く資格があるのか?労ってやるべき存在?神姫は・・・? 玩具にそれをするのか?人間にそれをしないのか? 「・・・無事でよかったよ」 武士は恐ろしくばらばらな表情でようやくそれだけ吐くと、華墨を抱え上げポケットに入れ、無言でブースから出るのだった 「見事な『壁』役だったね」 「僕は厭だよ。本当はこんな役なんて」 「買って出た苦労だろう?私は何も頼んじゃいない」 「・・・・・」 「・・・君にとってはどうなんだい?」 「何がさ?」 「神姫とは高性能な知性を持った玩具なのか・・・?身長15センチの人間なのか・・・?君が佐鳴武士に叩き付けた問いについて・・・だよ」 「・・・そういう話は川原さんとでもしてなよ。帰ろうか?エルギール」 主よりも遥かに派手な神姫を肩に乗せて去る少女を見ながら、皆川はいかにも意味ありげに不気味に微笑んで見せるのだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ